イタ飯百珍

イタリアが「他国に負けない!」と気を吐いているもの、それが「食」!

生ハムのエリートたち

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イタリアの小学校はおやつを持参で登校する。

娘のおやつは、あけてもくれても「生ハムを挟んだパニーノ」、生のにんじんスティックかリンゴという、おとぎ話に出てきそうな素朴なメニューだ。

 

イタリアでも知名度が高いのは、「パルマの生ハム」と「サンダニエーレの生ハム」ということになっているので、我が家が購入するのはもっぱらこのどちらか。

あるいは、街にある豚肉専門店自家製の生ハムを買ってくる。

 

ところが先日、「イタリアが世界に誇れる生ハム11種」という話題があった。

それぞれの生ハムの紹介に、大カトーメディチ家の名前まで登場するのがいかにもイタリア的である。

 

そもそも「豚」という動物は、古代の人たちには良い印象がなかったらしい。

その「豚」の太もも部分を、かくも美味にしたというわけで、古代ギリシア人やローマ人も「生ハム」を高く評価することには異論はなかったようだ。

古代ローマ時代の詩人、ホラティウスペトロニウスも豚肉について言及している。当時の豚肉は、「熟成」したものばかりではなく「燻製」にしたものも多かったようだが。

 

中世に入っても生ハムの評価は下がることがなく、封建領主たちが税金がわりに「豚肉の腿」を徴集したこともあったそうだ。

ルネサンスの時代に入ると、当時のカリスマシェフであったマエストロ・マルティーノ、クリストフォロ・メッシブーゴ、バルトロメオ・スカッキが、17世紀に入ると農学者ヴィンチェンツォ・タナーラが、18世紀には貴族で料理研究家のイッポーリト・カヴァルカンティが、そして現在までそのレシピ集が書店にならぶイタ飯の父ペッレグリーノ・アルトゥージが、「生ハム」について詳しい著述を残しているのだ。

 

そして、2000年のあいだに「生ハム」精製の技術も進み、現在のイタリアにはDOP とIGPという品質保証のシールが貼られているのは10種類ある。食の専門家たちは、これにチンタ・セネーゼと呼ばれるブランド豚肉から作られる生ハムも加えるべきだ、と主張しているのだそうだ。イタリアではなぜか、「日本人や中国人も大好きなチンタ・セネーゼ」と言われることが多い。

 

それでは、その11種類を見てみよう。

 

①チンタ・セネーゼの生ハム

1338年にアンブロージョ・ロレンツェッティが描いた『善政の寓意』にはシエナ周辺で白い線の模様が入った豚を飼う農民の様子が描かれている。古代からエトルリア人によって飼育されてきたこの豚は、近世になって飼育が容易な豚の種が増えて、一時期絶滅の危機にあったという。現在はその数も増え、生ハムとなるものも多い。

チンタ・セネーゼの生ハムは、粗塩と香草とコショウ、アリアータと呼ばれるニンニクと酢のソースとともに18ヶ月から20ヶ月の熟成期間を置く。熟成場所は、古代からワインの醸造などにも使われてきた城壁の穴や洞窟が多いのだそうだ。室温、湿度ともに、豚肉の熟成にも最適なのだとか。

 

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コルトーナの美術館で見つけた、ルネサンス時代の絵画に残る「チンタ・セネーゼ」。

 

 

 

②アオスタ渓谷産ジャンボン・ドゥ・ボッス DOP
1600メートルの山の上で生産される「Vallée d’Aoste Jambon de Bosses」は、豚の足の先まで残して熟成するのが特徴。文献に初めて登場するのは、1397年。木製の小屋で熟成する生ハムで、最低でも7キロの重さがあり。

 

アマトリーチェの生ハム IGP

「Prosciutto Amatriciano」は、切ったときの鮮やかな赤色と脂肪の純白が特徴。深い味わいだが、塩気は強くない。標高1200メートル以下の、アマトリーチェ周辺で生産される。中世からの伝統があり、当時からその味には定評があった。1811年、ナポレオンの義弟でナポリ王であったジョアシャン・ミュラは、ナポリに豚肉の産業を普及させる際、アマトリーチェ周辺に家臣を送って生ハム製造を学ばせたという記録がある。

 

④カルペーニャの生ハム DOP

「Prosciutto di Carpegna DOP」は、マルケ州のカルペーニャで15世紀から生産されている生ハム。添加物が一切ないのが自慢で、その丸っこい形から地元の人は「アッドッボ ( Addobbo )」というかわいい愛称で呼んでいる。非常にデリケートで甘みのある生ハム。

 

⑤モデナの生ハム DOP

「Prosciutto di Modena」。この辺りに古代から住んでいたケルト人やローマ人は、肉の塩漬けを常食にしていたため、保存が利く「生ハム」の製造技術は早くから発達したようだ。モデナの生ハムの先祖は、ラテン語で「exustus」と呼ばれるもので、これは直訳すると「よく乾いた」という意味。乾燥肉であったのだろうか。モデナの領主であったエステ家のこ文書にも残る生ハムは、堅い部分も捨てずに「トルテッリーニ」の中に詰める挽肉にして食べていたのだそうだ。

 

⑥ノルチャの生ハム IGP

「Prosciutto di Norcia caratteristica forma tondeggiante a pera」。丸っこい梨のような形状が特徴で、重さは最低でも8.5キロ。ノルチャさんの豚肉のおいしさは、古代ローマの農学者大カトーも言及しているほど歴史がある。

 

パルマの生ハム DOP

「Prosciutto di Parma 」は、「エミーリア・ロマーニャの気候と技術の完璧な融合から生まれた芸術品」と呼ばれるほど、その美味が世界中に知られている生ハム。重さは最低でも7キロ。西暦1000年からの歴史があり、厳しい審査を通過した生ハムにのみ公爵冠のシールが貼られている。

 

⑧サン・ダニエーレの生ハム DOP

「Prosciutto di San Daniele 」は、フリウリ地方の名産。アドリア海から吹く風を受けて熟成される。ギターのような形と独特の甘さが特徴。16世紀半ばに行われたトレント公会議では、アクイレイアの大司教公会議出席者に12個のサン・サンダニエーレ産生ハムを贈った記録が残る。

 

⑨サウリスの生ハム IGP

「Prosciutto di Sauris 」は、ウーディネ近郊のサウリス産の生ハム。脂肪の部分もほんのりピンクというのが特徴。わずかに燻製されているため塩分が少なく、ゆえに繊細な甘さに定評がある生ハム。

 

トスカーナの生ハム DOP

「Prosciutto Toscano」は、すでにシャルルマーニュの時代に製造については厳しい規則があったという。その後、メディチ家の庇護のもと、どこよりも先駆けてあらゆる製造工程に厳しい規則を設けたのがトスカーナの生ハムなのである。ニンニク、ローズマリー、ギンバイカ、ビャクシンなどの香草を使うのが特徴。

 

⑪ヴェネト・ベリコ-エウガネオの生ハム DOP

 「Prosciutto Veneto Berico-Euganeo」は、ヴェネト州の生ハムで、その起源は古代ローマ時代のケルト人たちにまで遡る。モデナの生ハムと同様、肉をいかに保存するかという古代人の知恵が我々の時代にまで伝わったのだろう。ヴェネト州の生ハムは、知名度がイマイチなのだが、イタリア統一後に評価が高まり現在に至っている。

 

生ハムは、その質もさることながら、薄く切り分けるさいの技術に関してもイタリア人はうるさい。

昨今では、ほとんどが機械で薄切りにされてしまうのだけど、手作りをウリにする生ハムを青空市場で売るおじさんたちは、包丁で切ってくれる。透けるように薄く切り分けるおじさんには、「これもまた芸術」と賛嘆の声が浴びせられるのが常なのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

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