イタ飯百珍

イタリアが「他国に負けない!」と気を吐いているもの、それが「食」!最近は備忘録。

封鎖後の美術館デビュー

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6月14日(日)

感染は下火になったとはいえ完全に収まったわけではないので、できれば家にいるのが理想的なのかもしれない。

トリノで行われているマンテーニャ展は、今回は泣く泣くあきらめた。

たいがいのことは我慢できる私が、「なにがなんでもフィレンツェに行く」と言い出したのは、かの地のパラティーナ美術館でジョヴァンナ・ガルツォーニ展が開催されていると知ったからである。会期は6月いっぱい。

カレンダーをにらみつつ、月末に夫と娘がキャンプに行くといっていたので、そのすきに私は1人でフィレンツェに向かおうかとも思ったのである。

しかし夫が、「1人で行くなんて無茶な。僕も行くよ」と言ってくれた。

娘は、「私は美術館はパス。パパとママだけできれいなもの見てきなよ」とのこと。彼女は、1昨年連れて行ったナポリのカーポディモンティ美術館で凝りてしまったのだ。

 

せっかくフィレンツェに行くのだから、ン十年ぶりにウフィッツィも見ようかという話になった。普段は観光客が長蛇の列をなす美術館も、予約は簡単にできた。

パラティーナ美術館は、13時に閉館してしまう。というわけで、土曜日にウフィッツィを見て、翌日朝早くパラティーナ美術館に向かうことにした。

久々の旅行だからと少し気張って、サント・スピリト大聖堂広場にある元貴族の屋敷のホテルを予約。

パニーノで腹ごしらえをしてウフィッツィに入ったのは14時。それから閉館までの4時間、館内で鑑賞したのだが時間は足りないくらいだった。

私も夫も、15世紀半ば以降の作品があまり好きではないという嗜好は同じなので、中世の時代の美術に時間をかけた。

想えば大学時代、このフィレンツェでブロンズィーノを見て、マドリッドプラド美術館でベラスケスを見たのが、私の運のつきだった。あの大学時代の旅行がなかったら、ヨーロッパに住むなんて大胆なことも考えなかっただろう。その意味では、文化というのは本当に人生に大きな影響を与えるものだと思う。

イタリア人の夫も、仕事でフィレンツェに来ることは多いのだけど、ウフィッツィの見学なんてこんな機会でもない限りすることがない。

今回のウフィッツィでは、シモーネ・マルティーニとフィリッポ・リッピが特に印象的だった。

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この大天使ガブリエルのマント、ほんとうに祖母遺愛の黄八丈にそっくりなのだ。

 

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フィリッポ・リッピ。尼僧を盗んだ破戒僧の手になるにしては、美しすぎる!

 

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青と赤の画家と呼ばれるアルドヴィネッティ。雑誌の記事で読んでずっと見たかった作品。

 

レオナルドやミケランジェロラファエロをまとめて見れることは、ほんとうに贅沢だと思う。しかし、この3人の天才たちの作品、メジャーなものは食傷気味のところもあるのだ。私もかつてはラファエロに夢中であったけれど、ちょっと嗜好が変わってきた。

 

18時過ぎに美術館を出ると、外は雨。

夕食は宿の主人に聞いて出かけたのだけど、イマイチだったかな。これはあとで、フィレンツェに住んでいたことがある親友に聞けばよかったと後悔した。

 

翌日、ホテルから歩いて1分ほどのピッティ宮殿でいやというほどラファエロティツィアーノを鑑賞した。ピッティ宮殿は、何度来ても首が痛くなる。なにしろ、天井すれすれまで無作為に傑作が並べられているので、うっかりすると傑作を見逃してしまうのだ。上まで見上げて、あんなところにティツィアーノが、あんなところにラファエロがといった具合である。

突如としてジョルジョーネやカラヴァッジョが登場し、ほんとに油断も隙もない。

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写真ではわからないけど、恐ろしく繊細な線で描かれています。その優しさは、見ている人を幸せにしてくれます。

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アポロンに扮した自画像。自分を極端に美化しないところも好ましい。

 

幸い、お目当てのジョヴァンナ・ガルツォーニはまとめて美術展になっていたので、ゆっくりと楽しむことができた。イタリアの食文化について書く機会があると、彼女の作品は過去の食材を知るうえでとても貴重な史料であった。お礼も込めての、ガルツォーニ参りといったところである。マルケ州アスコリ・ピチェーノ生まれのガルツォーニ、若いころから才気あふれてヴェネツィア、ローマ、ナポリトリノといったイタリア半島に加え、パリはロンドンにも滞在した経験がある活動的な女性だった。

静物画というカテゴリーは、実は私はまったく好みではない。しかし、カラヴァッジョとガルツォーニだけは、胸が痛くなるくらい好きだ。フィレンツェまで見に来ることができて、ほんとうに幸福だった。

近代美術は興味がないので通り越して、雨が止んだフィレンツェをそぞろ歩き。

久々のフィレンツェは、とても美しかった。ローマに住んでいると、「あのフィレンツェ人め」とか「トスカーナ野郎が」なんて悪口をきくのだけど、それはやはり衆に優れた人々に対する劣等感があるに違いない。トスカーナ州は、私にとってはいつ訪ねても、おいしくて美しくてスゴい場所だというのに尽きる。

今度は、なにがなんでも娘も連れてきてこの偉大なるトスカーナ人の遺産をしっかり見せてあげようと思ったことであった。

それにしても、マスクをしての美術鑑賞は結構なストレスであった。そして、フィレンツェを代表する美術館2つを2日で制覇して、足腰がいたい。体もなまっていたと思うし、美術館以外にも歩いての移動距離が多かったのだと思う。

人びとは、人気作品の前に固まってしまわないように、大人の分別で鑑賞していたと思う。たまに、分別のない人が割り込んでくることもあったけれど。

閉まっているお店も多かったけど、フィレンツェで働いている人はみな生き生きしていた。以前、アレッツォで美術館の職員やバールの店員の態度の悪さに辟易した記憶があるけれど、今回であったフィレンツェの人々はとても親切だった(ウフィッツィ美術館の切符売り場のおじさんをのぞいては)。

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ボッティチェッリが描く美形軍団。『ベニスに死す』のタッジオがてんこもりになってるみたい。

 

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美術館付属の書店はお宝の山!私は興奮しすぎて選ぶことができず、今回は夫の趣味でこちらの2冊。娘へのお土産。

 

前を向きだしたイタリアとともに、私も明日からまた頑張って仕事をしよう。