イタ飯百珍

イタリアが「他国に負けない!」と気を吐いているもの、それが「食」!最近は備忘録。

冷凍モッツァレッラ・チーズをめぐる賛否 

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向かって左側が「サレルノ産」、右側が「ローマ南部産」モッツァレッラ

 

 

 

先日、夫がサレルノ大学に出張し、ご当地に詳しい教授に「サレルノ一うまいモッツァレッラ」を売る店を教えてもらったといって買ってきた。

暑い夏、料理がしたくなくなると、モッツァレッラは主婦の偉大なる味方になる。

モッツァレッラとトマト、それにパンでもあれば、食欲がなくなる夏の食事は済んでしまうこともある。

というわけでその日は偶然、夫から「サレルノ一のモッツァレッラを買った」という一報がある数時間前に、私は地元のスーパーでモッツァレッラを買ったばかりであった。

そこで、その日は「サレルノ一のモッツァレッラ」と、我が町のスーパーで買ったモッツァレッラを食べ比べてみようと言うことになった

スーパーで買ったモッツァレッラといえども、大量生産されて売られている袋入りのものではない。地元の業者が、スーパーに卸しているものだから、買うときは「あまり大きめでないモッツァレッラをふたつちょうだい」という具合に買う。スーパーのお兄さんは、「今日はリコッタもおいしいよ」なんて軽口をたたきながら、モッツァレッラとを袋に入れて重さを量り保存用の液体も加え、値段を貼り付けてくれる。

 

サレルノ産とローマ近郊産を皿に並べてくらべると、ローマ近郊産のほうが見た目はつるつるしているといった程度だ。

味はどうだろう。

私は普段からモッツァレッラはあまり食べ慣れていない。

夫も、モッツァレッラをとくに好んでしじゅう食べる、という人ではない。

その二人でモッツァレッラの食べ比べをしても、生産者さんには申し訳ない結果しかでなかった。つまり、「微妙に塩分が違うけど、味は大差ない」。

 

イタリア各地に出張すると、「ご当地もの」を強く推奨する人によく出会うらしく、「ご当地で一番ウマい」という食材を夫はよく買ってくるが、お国自慢が大好きで思いこみが激しいイタリア人の「ご当地一」もだいぶ差し引いて考えるほうが無難かもしれない。

 

我が家は普通、カステッリ・ロマーニ地方の農家や酪農家が主催する直営マーケットでモッツァレッラを買ってくる。朝作ったばかり、というモッツァレッラはまだ生温かい。そして、買うたびに毎回味が変わる。

一度文句を言ったら、お兄さんにせせら笑われた。

「ボクたちが作ってるのは’自家製’のモッツァレッラだ。牛の乳の味は、小牛が成長するにつれて変わるんだから、チーズの味が毎回変わるのは当然だ」。

そう、イタリアでは5月に作るチーズが最もおいしいといわれるのは、小牛や子ヤギが春に生まれるので、5月の乳が甘いからという理由によるのだろう。過去には、塩と砂糖を間違えたのではないかと疑うくらい甘かったこともある。

市場では、牛乳の乳から製造するチーズのみを販売するおじさんも「牛のモッツァレッラチーズ」を売っているが、モッツァレッラの原材料は「水牛」の乳であるほうが断然おいしい、とモッツァレッラにこだわりがあるとも思えない夫も主張する。

 

ところで、モッツァレッラを生産する人が口を揃えて言うのが「モッツァレッラを冷蔵庫に入れるな!」の一言だ。

しかし、スーパーに行けばモッツァレッラは冷蔵コーナーにある。

 

「冷蔵庫はダメだ。冷暗所に保管すれば、4,5日は大丈夫」

モッツァレッラ職人たちは豪語するのだが、この季節に「暗」はあっても「冷」の場所など家の中にあるはずもない。

それでも、「冷蔵庫はダメだ」が、彼らの口癖になっている。

 

冷蔵庫でさえもタブーなのに、なんと「冷凍モッツァレッラ」の規制緩和のニュースが流れた。もちろん、カンパーニア州の農業総同盟は大反対だ。

農業総同盟のメンバーはいずれも、「保護原産地呼称 ( DOP ) 」の保証付チーズを生産する職人たちである。

「数世紀に及ぶイタリア食材の代表格モッツァレッラを冒涜するのか!」

と、早くもけんか腰だ。

 

イタリアの農林政策省は、現在のモッツァレッラの輸出方法では、保存用の液体が不可欠のためコストの面で問題があり、-18度以下の輸送を実現すれば現在キロあたり10ユーロもかかる輸送費が50セントにまで削減できる、と主張している。つまり、イタリア食材の輸出拡大に向けて政策を練ってきたのだ。

また、カンパーニャ州の農業組合も「伝統的なモッツァレッラは、製造後4時間以内に冷凍し質を落とさないようにし、なおかつ冷凍品ではない商品と区別をするために’frozen'の記入をする」と述べて、農業総連盟を説得しようとしている。

 

が、農業総連盟は

「それならキャンティ・クラッシコを冷凍保存して輸出し、品質や味が変わらないか試してみろ!」

と怒り心頭だ。

 

モッツァレッラチーズの重要度が高いイタリア料理の高名なシェフ、ピッツァ職人たちはしかし、冷静な対応をしているらしい。

「’モッツァレッラ’と名乗ることもおこがましいような品質の、外国産の模造品が世界中で売られていることを考えれば、本家イタリアで製造され’冷凍’されたモッツァレッラが、’冷凍品’と明記されて売られるほうが望ましい」

というのが、彼らの意見のようだ。

 

ちなみに、輸送コストがキロあたり10ユーロかかるモッツァレッラチーズは、ニューヨークでは1キロ35ユーロの値段がついているのだそうだ。

モッツァレッラはその昔、保存が利かないチーズのため、生産地カンパーニア州でしか味わえないチーズであった。

ナポリのブルボン王家の王様たちもこのモッツァレッラチーズを愛し、ナポリの王宮には「王家御用達モッツァレッラ」を製造するための水牛小屋まであったという。

近代になり鉄道が敷かれ、モッツァレッラはようやくカンパーニア州を抜け出し、イタリア半島に普及したという歴史がある。

ちなみに、なぜかモッツァレッラはできたてのほやほやよりも、次の日くらいに味が落ち着くような気がする(私個人の感想です)。

そして、毎度食べきれなくて結局パスタに混ぜたり、ズッキーニの花に詰めてフライパンで焼いて食べることになるモッツァレッラ、水分が飛ぶと塩味が勝っておいしい、と感じる私は、モッツァレッラを語る資格などないのかもしれない。

 

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食べきれないモッツァレッラ、結局このように調理することに。アンチョビも入れるとおいしいんですよ。

 

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