イタ飯百珍

イタリアが「他国に負けない!」と気を吐いているもの、それが「食」!最近は備忘録。

スパルタバカンスここに極まれり 2020年夏

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バジリカータ州ではペペローニ・クルスキと呼ばれるトウガラシの揚げたものがしばしば登場。

 

8月15日(土)

今年の夏は、イタリア人の多くが国内にとどまってバカンスを過ごしている。我が家ももちろん、そのたぐいである。とはいっても、美術館や教会を見たい私とは異なり、娘は数年前のナポリのカーポディモンテ美術館の広さに懲りてしまって、美術館だけは勘弁してくれという。

娘の意向を重視して、今年の夏はポッリーノ国立公園で過ごすことになった。イタリア南部、カラブリアからバジリカータに広がる大自然である。

夫がたてた計画では、16000年前の壁画が残るロミートの洞窟に隣接するB&Bで一泊、国立公園のど真ん中にあるサン・セヴェリーノ・ルカーノで4泊、あとは私の希望を入れてマテーラに滞在というものであった。

ポッリーノ国立公園になにがあるのかさっぱりわからないまま出発したのだけど、これまでも国立公園でのバカンスといえばひたすら歩かされることが多くて私も覚悟はしていたのだ。しかし、今年はよりハードにレベルアップしていた。

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16000年前に人類が残した牡牛の絵

 

まず、カローレ川という川沿いを歩かされパニーノのお昼、そのあとはカステルチヴィタという洞窟の中を真っ暗な状態で探検、そのままロミートの洞窟がある宿に到着し、翌日はその洞窟を探検。さらに、ラオ川で12キロに及ぶラフティングを強行し、翌日は近隣の温泉に行ったのだけどコロナの影響で閉鎖していたために、偶然見つけた美しい滝と海で過ごした。

その次の日は、リバートレッキングでゴム長をはいて川をさかのぼり、翌日はポッリーノ連山を7時間半かけて12キロ強を歩いた。

最後は、イオニア海で海水浴をしなあらマテーラに向かい、人込みと暑さに辟易してローマにもどる、という旅程であった。

結果からいうと、もっとも期待していたマテーラはとにかく人が多く、町の様子もひじょうに独特ではあるのだけど、すぐに飽きてしまった。どこを見ても同じだし、いかにも観光地という趣なのである。マテーラでの収穫は、この地で農業の促進をする若者たちが経営するレストランで食事をし、山ほどのバジリカータ産の物品を注文できたことくらいだった。本当は最終日も半日はマテーラを散策する予定だったのだけど、蓄積した疲労と暑さと人出のためさっさと逃げ出したというのが正しい。

 

ポッリーノ国立公園にももちろんバカンス客がいたのだけど、概して海を好むイタリア人はあまり山に来ないし、広大な国立公園内を車で移動してもすれちがう車も稀なくらいだった。

夫は一か所にとどまってのんびりと過ごすバカンスというのが嫌いで、とにかく能動的に動いていないと気がすまない。体力的にはきついのだけど、まあ達成感だけはモノにできるというメリットはあるのである。

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「神々の庭園」の別名がある山頂で。涼しくて水がおいしくて最高だったけど、下りの最後の1キロでヘロヘロに。

12キロに及ぶラフティングはとても楽しかったし、最後は木の根っこで転んで倒れこむように戻ってきたトレッキングも、終わってしまえば「よくやったなあ」と自分をほめてあげたくなる(私は自分に甘いのだ)。

それに、カラブリアからバジリカータにかけては、とにかく働いている人たちの感じがよかった。愛嬌がある南部のイタリア人は、情報も惜しみなく与えてくれるし、こちらの要望にもできる限り応えてくれようとする。コロナによるロックダウン後のことだから、ここが稼ぎ時と頑張っていたのもあると思うけど、それが非常に潔くすがすがしかった。

食べ物に関しても、まったく外れがない。いわゆる、カザレッチョと呼ばれる素朴な料理ばかりなのだけど、ナスやズッキーネといったなんでもない素材もとんでもなくおいしく供されてくる。地元の人に教えてもらったアグリトゥーリズモの食事は、メニューがなくて前菜からデザートまでその日に作ったものが登場するという趣向なのだけど、これも押しつけがましさのない美味であった。

1日遊びに行った海沿いのレストランは、地元の学校の40歳を祝う小規模な同窓会が開かれていて、これはレストランの選択を間違えたかと思ったものだ。ところが、出てきた料理のおいしさには心底びっくりした。。ガンガン陳腐な音楽が流れる中で、店主は異常なまでに私たちに気をつかいおいしいものを次々に運んでくれた。3人で「もう無理です」というほど食べて37ユーロである。ローマに戻る途中で立ち寄ったベネヴェントのレストランも同様。とにかく押しつけがましさのない自然な愛嬌というかサービス精神と料理のおいしさは、今年の夏の良い思い出として残ると思う。

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期待外れだったマテーラ。好みの問題もあると思うけど、私にはイマイチ。

ラフティングやリバートレッキングのガイドさん、洞窟案内のガイドさんたちも、その職務を心から愛して務めている様子はとても素敵だと思ったものだ。なんというか、洞窟のガイドであろうが山岳トレッキングのガイドであろうが、プロとしての矜持にあふれている人たちであった。

マーニャグレチアと呼ばれ、古代から穀倉地帯として知られていたイタリア南部のなだらかな丘の重なり、そこに連なる風力発電の羽、まるで果物の楽園かと思うくらいに車窓に現れるリンゴやイチジクの木々。美術館も教会も無縁だったけれど、よい夏の思い出である。

今日のイタリアはフェッラゴストと呼ばれる祭日で、町中からはバーベキューの煙が上がっている。我が家は体力的にきつかったバカンスの名残で虚脱状態、食欲もあまりなくぐたーッと過ごしている8月15日。

パンパンに張れた脚をマッサージしながら、のんびり過ごす予定だ。