月曜日の夕
日本の状況を憂えて落ち込んでいたのは数週間前だったのに、火の粉は我が身にも降りかかってきている。
夫は今日から在宅ワークとなり、狭い家の中は人口密度が高くなった。別の意味で息苦しい。まあそんなことはぜいたくな悩みで、とにかく感染せぬ用心が大事だからと家から一歩も出ていない。
本日もクラスのチャットは騒々しかったようだが、私は初めから着信音をオフ。
シエナでB&Bを営む友人夫婦から、もう閉業は目の前というメッセージが来て落ち込んだ。気楽な友人同士のメッセージだから、お下品なイタリア語でコロナウィルスを罵っている。アメリカ系の学校の学食で働いていた別の友人からも、学生たちは急遽帰国したので早々にクビになったと報告が入った。
長期戦が必須となったこのウィルスの影響は、観光立国のイタリアにどれだけの鉄槌となっているのか。想像するのも恐ろしい。
日本人学校の先生とイタリアの学校の教師から、子どもたち向けのメッセージが届いた。平易な言葉で子供たちに優しく語り掛けるそのメッセージには、不覚にも涙した。
陳腐な感情に流されてはいけない、ドラマチックに考えてはいけないと自分に言い聞かせてはいても、平常心を保つのはなかなかに難しい。
劇的に増えていく感染者や死者の数。その数だけが大きな顔で闊歩して、病気で苦しんでいる人や家族を失った人の悲しみが見えてこないのがまた恐ろしい。我が家はテレビがないから、もっぱらインターネットのニュースを読むだけである。そこに、人々の感情までは表現されていない。
というわけで、一日中仕事に没頭した。現実逃避できるすべがあることに感謝しよう。
夫が夕食を作る音が、キッチンから聞こえてくる。彼は、口笛を吹いている。甘いトマトソースの香りに、涙腺が震える。落ち着け、落ち着けと自分に言い聞かせて、涙はこぼさない。
P.S. 22時近くなって首相令が発表される。全イタリア封鎖。「イタリア人の健康を守るためには、イタリア的な習慣も含めてすべてを犠牲にしなくてはならない。その重さと責任は、痛感している。しかし、われわれには時間がない」。コンテ首相の弁である。